~野球人に生まれて~

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昨今の野球界における球速向上について ~速い球を投げるには~ 〈前編〉

 本日は、投手の球速について取り上げたいと思います。昨今のプロ野球界では、投手の球速が明らかに全体的に速くなっています。一部のデータでは、2014年と2023年現在を比較して、5km程の平均球速上昇が起きているといいます。

 

 速い球を投げることは、基本的には投手にとってプラスに働きます。速い球は遅い球と比較して、打者にとって見極めの時間が短くなるため、捉えにくくなります。また、速い球を投げられると、打者はバットスイングの振り出しタイミングも早まるため、変化球にタイミングが合いづらくなります。

 

 一方、速い球は遅い球と比較して反発係数が高くなりやすいため、捉えられた際の飛距離が出やすくなります。また、一般的に速い球を投げる投手の腕や肩にはより大きい負担が掛かっていると考えられます。現に、肩やひじを痛めてしまう投手は速球派が多い印象です。

 

 なぜ、ここ最近でプロ野球投手の球速が全体的に引きあがってきているのでしょうか。私は、以下2点の影響が大きいのではないかと考えています。

 

① 科学的なトレーニングの普及や、食事等の栄養摂取効率の改善により体格がよくな

  っていること。

② youtubeなどの動画サービスの普及により、上級者の技術を取り込みやすくなって

  いること。

 

 ①については、どなたでも想像しやすい話になるかと思いますが、科学的な根拠に基づいた食事やトレーニングを積むことで、昨今の日本人選手の体格は徐々に良くなってています。パワー系の競技である野球は、基本的に筋肉量があればあるほど有利と言えます。また、球速や打者の飛距離に関しては、腕や足の長さが長いほうが有利となるため、身長が高いほうが良いといえます(ボールにかかる遠心力は、円の半径すなわち腕の長さに比例するため)。

 

 ②については、案外皆さんも見落としがちのポイントかと思いますが、youtubeなどの動画サービスの普及は、スポーツ界にとっても非常に大きな改革であったと考えています。

 

 基本的にスポーツにおける技術は、言葉や文字で伝えるより、視覚に訴えたほうが遥かにイメージが残りやすいことは明白です。昔は上手い選手のプレーを目に焼き付けるか、ビデオカメラなどで撮影するしかありませんでしたが、今はyoutubeで、有名選手の技術を繰り返し何度も無料で見ることができます。

 

 では、速い球を投げられる投球メカニックとは、一体どのようなものなのでしょうか。

 

 まず投球メカニックを大きく2フェーズに分けて考えると、1.並進運動(重心移動、ストライドとも)と、2.回転運動(腕のスイングとも)となります。並進運動は、踏み出し足を上げてから着地するまでで、回転運動は着地からフォロースルーまでをいいます。

 

 並進運動において成し遂げたい目的は、投球方向への慣性力の獲得です。すなわち、できる限り勢いよく且つ遠くへ重心を移動させることができれば、球速にとって有利になります。

 

 人間の体の重心は大体骨盤辺りであることを考えると、並進運動における目指す動きの一つは、いかに骨盤ひいては腰を「勢いよく、遠くへ移動させることができるか」になります。

 

 では具体的にはどのようにして、並進運動を行っていけば良いのでしょうか。

 

 よく指導の現場では、踏み出し足を上げた時のバランスについて議論されることが多いですが、足を上げて立った後は勢いよく前へ移動していかなければいけないわけですから、大事なのは足を上げてバランスを取ることよりも、その後にどうバランス安定状態を解除していくかとなります。ここで重要なのは、軸足(右投手なら右足)の股関節の動きです。

 

 野球選手なら一度は耳にしたことがある指導の一つに「股関節が大事」というものがあります。しかし、具体的に股関節のどのような動きが大切で、それは何をしたらできるようになるのかについて、詳細に理解している指導者はそれほど多くありません。股関節が投球動作の中でどのような動きが求められてるのかが分からなければ、練習の中でいくらストレッチなどを行って可動域が広がったところで、投球動作の中で上手く使えるようになるかどうかとは関係が無くなってしまいます。

 

 軸足一本で立った後は、軸足股関節をお尻側に引き込んでいくように使います。こう使うことによって、横から投球動作を見た場合に「ヒップファースト」の動作となります。「ヒップファースト」となることによって、重心が投球方向へバランス解除状態となり、勢いよく腰を移動させていくことが可能となります。

 

 また、軸足股関節をお尻側に引き込んでいく動きを並進運動の起点とすることで、着地するまでに軸足が投球方向へ完全に伸び切らせることができます。いうまでもなく、重心移動をできる限り遠くまで行いたい場合、最も遠くへ移動させる前提条件は「軸足が伸びきること」となります。

 

 軸足股関節をお尻側に引き込んでいくことで、並進運動では股関節を「前歩き」や「横歩き」ではなく、「後ろ歩き」に近い形で使うことができます。実際は、右足をプレートに平行な形で置いているため、完全な後ろ歩きにはなりませんが、要は効果的な並進運動を行いたいのであれば、できる限り「前歩き」や「横歩き」でなく、「後ろ歩き」に近いステップをすればいいですよという単純な話です。

 

 そしてこの軸足股関節をお尻側に引き込む動作は、着地後の回転運動にも深く関わってくる重要なポイントです。続きは後編で。

 

P.S.

この話をもっと具体的に知りたいという方は是非、前田健氏の「ピッチングメカニズムブックメカニズムブック」を読んでみてください。