~野球人に生まれて~

努力する選手が、才能のある選手と互角に競い合える野球界へ!!

菊池雄星投手の躍進について ~トップの重要性~

 先日、米国MLBトロント・ブルージェイズで活躍する菊池雄星投手が、自身初のMLBシーズン10勝を達成しました。私が個人的に応援していた選手なので、非常に嬉しかったです。なぜ、菊池雄星投手を応援しているのか。それは、大変な努力を継続しているということが、非常によく感じる選手の一人だからです。

 

 勿論、ベースボールの世界最高峰であるMLBで継続して活躍する選手たちは、恐らく全員が並外れた鍛錬を継続しています。その中で特に私が応援している菊池選手の場合、トレーニングや投球メカニックに対して独自に勉強を継続していて、理論的にレベルアップしていこうという姿勢が顕著に表れています(と私は感じています)。

 

 今回は、菊池選手の具体的な投球メカニック変遷の一例から、投球動作におけるトップ(テークバック動作の終点となる形)の重要性を説明したいと思います。

 

 菊池選手は2019年からMLBに挑戦し、1年目からシアトル・マリナーズで6勝を記録しました。先発ローテーションの一角として活躍しましたが、日本最強左腕と言われうみを渡った菊池選手としては、やや物足りない成績でした。後でわかったことですが、菊池選手は日本最終年となった2018年(西武ライオンズ在籍時)から、左肩がやや本調子ではなかったようです。その影響で、MLB1年目(2019年)はストレートの平均球速が148.9kmと、菊池選手にしてはやや物足りない数値となっていました。

 

 2019年のパフォーマンスを受けて、菊池選手は投球メカニックの改善に乗り出しました。改善したポイントは、テークバックからトップを形成する際、左上腕骨を引き上げる高さについてメスを入れたようです。

 

 2019年、菊池選手のトップ時における左上腕骨の高さは、両肩のラインより低く高さが足りていない状態でした。トップ時に投球腕の高さが十分に引きあがっていない場合、そこからの腕のスイングでは投球肩の外旋が十分に利かず、いわゆる「腕のしなり」が十分に機能しない状態で腕を振らざるを得なくなります。

 

 「腕のしなり」が十分に機能しない腕のスイングではボールの加速距離が十分に確保できず、「押し出す」ようなスイングになります。当然、スピード・制球・キレ等の項目にとって不利になります。勿論、程度の差はありますが、トップ時に十分に腕が引きあがっていない投手は、プロ野球のレベルでも一定数存在します。理屈的に難しい話ではありませんが、高速且つ複雑な投球動作において、毎球に亘り安定したテークバック動作を継続することは、予想以上に難しいものなのです。

 

 因みに、投球腕をテークバック時に両肩のラインまで引き上げてくるという動きは、オーバースローの投手に限った話ではありません。サイドスローアンダースローの投手においても、同様に必須の動作となります。また、野手のスローイングについても同様です。

 

 前回、別の記事でも解説しましたが、投球においてオーバースローサイドスローなどの腕の高さを決めるのは、テークバック時に腕を上げる高さではなく、踏み出し足着地後の回転運動における回転軸の傾き角度です。テークバック時には、どのようなメカニックにおいても一律に両肩のラインまで投球腕を引き上げる動作が必須であり、着地後に骨盤と上体が斜め上から回転すればオーバースローに、横に回転すればサイドスローに、斜め下から回転すればアンダースローになるという仕組みです。この辺りを正しく理解していない指導者は、全国に多くいます。

 

 2019年に6勝に終わり不完全燃焼となった菊池選手は、投球メカニック改善に乗り出し、テークバック時の投球腕を引き上げる高さを改善したことで、2020年はストレートの平均球速が152.9kmとなり(2019年と比較して4kmもUPしている)、大幅にパフォーマンス向上を果たしました。

 

 2020年は新型コロナウイルス感染症の影響で短縮シーズンとなりましたが、2021年に自身初のMLBオールスターゲームに出場、2022年には激戦区アメリカンリーグ東部地区の強豪トロント・ブルージェイズへ移籍、そして冒頭に書いた通り2023年に自身初の二桁勝利を達成するなど、着実にステップアップしています。

 

 今回紹介したテークバックにおけるトップの重要性は、以下前田健氏著書により詳細に解説されています。気になる方は一度読んでみてください。