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投手のテークバックについて ~アーム投法は間違っているのか~

 オリックスバッファローズの山本由伸投手が、恐らく日本ラストの登板になるであろう2023/11/4(土)の阪神タイガース戦(日本シリーズ第6戦)で、日本シリーズ記録の14奪三振をマークして完投勝利をあげました!

 

 山本投手は160km近いストレートに加え、カットボールSFF、シュートなどのいずれも高次元で多彩な球種を操ります。制球力もNPBトップレベルで、既にメジャーリーグでも十分な活躍が期待できる日本最強投手でしょう。

 

 山本投手の投球メカニックで目を引くのは、右腕のテークバック時に右肘が伸びきった形となっている、いわゆる「アーム投法」です。

 従来、アーム投法は肩やひじを痛めやすいとされ、あまり良い投げ方としては紹介されてきませんでした、実のところ、どうなのでしょうか。

 

 結論を言うと、アーム投法自体は問題ありません。問題があれば、オリックス山本投手や読売ジャイアンツの戸郷翔征投手はここまで活躍できていないでしょう。

 

 テークバック時における投球腕の動きにおいて必要な要素は、投球側上腕骨を両肩のラインまで引き上げてくる動作です。踏み出し足の着地後は、骨盤と上体の回転動作によって投球腕が引き出されてきますので、投球腕がどのように引き上げられてきたかは、その後の腕のスイングに関係ありません。

 

 アーム投法がダメだと言われてきた背景には、アーム投法による投球腕の動きが機械のピッチングマシーンによる動作を連想し、「何となく」ダメだと言われてきたのではないでしょうか。

 

 投手の投球動作は極めて精密なものであり、中でも無意識の動作が大半を占める投球腕の動作に意識を介在させることは、投球全体のバランスを崩すリスクを孕んでいます。そのことを、野球界のアマチュア指導者はよく理解して指導に当たるべきです。

 

 また、投手のテークバック動作で言えば、テークバック時に投球腕が背中側に入り込む動きも良くないとされることがあります。

 この動きに関しても、トップで正しく上腕骨が両肩のラインまで引きあがってきていれば問題ありません。

 さらに言うと、トップでは投球側上腕骨が背中側に引き付けられている必要があります。上腕骨が背中側に引き付けられたトップが形成されて初めて、体幹の回転と一体化した腕のスイングが可能となります。

 

 踏み出し足が着地した瞬間に、投球腕はトップの体勢に入ることが求められます。その際に、投球側の上腕骨が両肩のラインまで引きあげて且つ背中側に引き寄せられたトップを形成すること。これを満たすことのできるテークバックであれば、見た目の形はその後の腕のスイングに何ら影響するものではなく、やりやすい形を追求できる部分です。

 

 テークバックで上腕骨の引き上げが十分にできないメカニックは、肩関節が内旋状態のままテークバックを行っていることに大半の原因があります。肩関節が内旋している状態では、可動域が限られてしまい、十分なテークバックができない原因となります。

 

 ここまで述べたように、大切なのは踏み出し足着地時のトップの形であり、そこに至る過程には個人差の余地があります。テークバックにおいて、投球腕に意識を置いてメカニックを変更する行為は、投球動作における微妙なバランスを大きく崩すリスクを内包します。アマチュア選手を預かる指導者は、その事実を決して軽く見積もるべきではありません。

 

 今回解説したテークバックにおける投球腕の動きに関しては、以下前田健氏著書「ピッチングメカニズムブック」に詳しく記載されています。「ピッチングメカニズムブック」は、野球史に残る名著です。特にアマチュア指導者は、一度必ず読むべきバイブルと言えます。